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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)2308号 判決 1998年3月26日

原告

竹島秀明

ほか一名

被告

渡辺翔太

ほか二名

主文

一  被告らは、各自、原告竹島秀明に対し、六六八万六二八二円及びこれに対する平成八年二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、各自、原告住友海上火災保険株式会社に対し、四六万六六六六円及びこれに対する平成八年五月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告らの、その余を被告らの負担とする。

五  この判決の第一、第二項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告らは、原告竹島秀明に対し、各自七四七万四八三七円及びこれに対する平成八年二月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告らは、原告住友海上火災保険株式会社に対し、各自五〇万円及びこれに対する平成八年五月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告竹島秀明(以下「原告竹島」という。)が、自動車を運転中、渡邊弘人(以下「弘人」という。)の運転する自動車と衝突した事故に関し、原告竹島が、右事故によって死亡した弘人の相続人である被告らに対し、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づいて損害の賠償を求めるとともに、原告住友海上火災保険株式会社(以下「原告住友海上」という。)が、原告竹島運転車両の所有者である株式会社麺カンパニー(以下「麺カンパニー」という。)との間で締結していた車両保険に基づいて、右事故により麺カンパニーに対し車両保険金を支払ったとして、被告らに対し、商法六六二条に基づいて損害の賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実等

以下のうち、1、4は当事者間に争いがない。2は甲第六号証、第七号証の一ないし三、第八号証の一ないし六、第九号証の一、二、第一〇号証の一、第一一号証の一、二により認めることができる。3は第一二号証により認めることができる。

1  平成八年二月四日午後一一時五分ころ、大阪府豊中市柴原町二丁目一五番先の信号機により交通整理の行われている交差点(以下「本件交差点」という。)において、同所を北から南へ向けて進行していた原告竹島の運転する普通乗用自動車(大阪七一に九四四五、以下「原告車両」という。)と、同所を東から西へ向けて進行していた弘人の運転する普通乗用自動車(神戸七八ほ九二六四、以下「被告車両」という。)とが衝突する事故が発生した(以下「本件事故」という。)。

2  原告竹島は、本件事故により、左横隔膜破裂、左肋骨骨折、肺挫傷、肝損傷、左血胸、左下葉無気肺、脾損傷、顔面舌裂創、左鎖骨骨折、左第八、第九肋骨骨折、左膝関節部挫傷、左足関節部挫傷、歯折損等の傷害を受け、平成八年二月四日から同年三月六日まで大阪府立千里救命救急センター(以下「救命救急センター」という。)に入院、同月七日から同年七月二三日まで同病院に通院、同年三月一五日から同年八月二三日までさくら整形外科に通院、同年三月二九日に大阪脳神経外科病院に通院、同年三月二七日から同年八月八日まで室井歯科に通院して治療を受け、平成八年七月二三日救命救急センターにおいて、同年八月二三日さくら整形外科においてそれぞれ症状固定の診断を受けた。

3  原告は、自動車保険料率算定会調査事務所により、自賠法施行令二条別表障害別等級表一二級五号の後遺障害が存するとの認定を受けた。

4  弘人は本件事故により死亡し、弘人死亡当時、被告らはいずれもその子であった。

二  争点

1  本件事故態様

(原告らの主張)

本件事故は、原告竹島が対面信号に従って本件交差点に進入したところ、弘人が、対面信号の赤色表示を無視し、制限速度を大幅に超過したうえ本件交差点に進入したために発生したものである。

(被告らの主張)

本件事故は、原告竹島が対面信号の赤色表示を無視して本件交差点に進入したことに起因して発生したもので、原告竹島の一〇〇パーセントの過失によるものであるから、被告らは何ら責任を負うものではない。

2  原告らの損害

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件事故態様)について

1  甲第二号証の二、三及び証人佐川富生の証言、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実を認めることができる。

(一) 本件交差点は、東西に通ずる道路と南北に通ずる道路とが交差する信号機により交通整理の行われている交差点であり、東詰、南詰には横断歩道が設置されている。(本件事故現場付近の状況は別紙図面のとおり)。

(二) 本件事故当時、東西道路の南側歩道を本件交差点の東側から本件交差点に向けて歩行していた佐川富生(以下「佐川」という。)は、本件交差点の東詰停止線手前約二八・九メートルの地点で、対面信号が赤色であるのを認め、その直後に原告車両と被告車両とが衝突するのを目撃した。本件事故当時、東西道路の交通量はあまりなく、佐川は、東西道路を走行する車両は被告車両しか覚えておらず、その前後左右には他の車両はなかったと記憶している。

(三) 原告竹島は、本件事故当時、原告車両を運転して南北道路を北から南へ向けて時速約四〇キロメートルで走行しており、本件交差点のひとつ手前の交差点を対面信号に従って通過した後、本件交差点の手前約二二・九メートルの地点で本件交差点の対面信号が青色であるのを認め、これに従って本件交差点に進入したところ、東西道路を東から進行してきた被告車両の前部が原告車両の左前部に衝突した。右衝突により、原告車両は本件交差点の西側へ約二六・〇メートル飛ばされて停止し、被告車両は、本件交差点の西側へ約一〇メートル進行し、歩道縁石にその後部を衝突させて停止した。

2  右によると、本件事故は、弘人が対面信号が赤色であるのを無視または看過して本件交差点に進入した過失により発生したものと認められる。

被告らは、本件事故は、原告竹島が対面信号の赤色表示を無視して本件交差点に進入したことに起因して発生したものであると主張するが、原告竹島の認識と本件事故の目撃者である佐川の認識とは合致しており、なんら不自然な点も認められず、反対に、被告車両の運転者である弘人は本件事故により死亡したとはいうものの、弘人が対面信号に従っていたことを窺わせる事情はなんら見当たらず、被告らの主張は採用できない。

二  争点2(原告らの損害)について

1  原告竹島の損害

(一) 治療費 四五二万七八二二円(請求どおり)

甲第七号証の二、三、第八号証の四ないし六、第九号証の二、第一〇号証の二ないし七によれば、原告竹島は、救命救急センターの治療費として四三〇万九五三〇円、さくら整形外科の治療費として一四万八一五二円、大阪脳神経外科病院の治療費として六万三五七〇円、室井歯科の治療費として六五七〇円の合計四五二万七八二二円を負担したことが認められる。

(二) 入院雑費 四万〇三〇〇円(請求四万六五〇〇円)

弁論の全趣旨によれば、原告竹島は、救命救急センターに入院中であった三一日間に日々雑費を支出したことが認められるところ、本件事故と相当因果関係のある損害としては一日当たり一三〇〇円とするのが相当であるから、右合計は四万〇三〇〇円となる。

(三) 通院交通費 一万六九三〇円(請求どおり)

甲第一三号証の一ないし九及び弁論の全趣旨によれば、原告竹島は、救命救急センター及び大阪脳神経外科病院への通院に際し、タクシー及び鉄道を利用し、合計一万六九三〇円を支出したことが認められる。

(四) 文書料 六万五五〇〇円(請求どおり)

甲第一四号証の一ないし八及び弁論の全趣旨によれば、原告竹島は、診断書、事故証明書等の取得のために六万五五〇〇円を支出したことが認められる。

(五) 休業損害 二二九万一五一六円(請求どおり)

甲第一五号証の一、二及び原告竹島本人尋問の結果によれば、原告竹島は、本件事故により平成八年二月五日から同年六月一五日までの間、勤務先の株式会社麺カンパニー(以下「麺カンパニー」という。)を欠勤し、この間の給与と賞与の合計二二九万一五一六円の支払を受けることができなかったことが認められる。

(六) 逸失利益 一一一五万六七八〇円

(請求一三〇一万六二四三円)

甲第一六号証、第二一号証及び原告竹島本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告竹島は症状固定時四〇歳であり、本件事故当時麺カンパニーに勤務し、平成七年には五五三万二八〇〇円の収入があったこと、原告竹島は、平成七年六月に麺カンパニーの取締役になり、その後しばらくしてから取締役報酬として月額三万円を支給されるようになったものであること、原告竹島は、調理師の免許を有し、本件事故当時は店長の地位にあったが、九割程度は調理に携わっており、そのほかに取締役として五、六店舗を回り、労務管理や従業員の指導監督をする等していたこと、原告竹島は、左鎖骨や肋骨を骨折したため、フライパンを長い間持っていると疲れ、また、長時間立っていると疲れるなどの不都合が生じているが、本件事故によって減収したことはなく、同期の他の従業員と比べて特に昇給が遅れたということもないこと、麺カンパニーの代表取締役である串部幹子(以下「串部」という。)は、原告竹島の働きぶりを評価して原告竹島を取締役とするとともに、前記のような調理以外の業務を行わせるようになり、将来的には原告竹島を麺カンパニーの幹部候補にと考えていたが、原告竹島が本件事故に遭ったことから、原告竹島が従来期待していた業務を今後こなして行くことは困難であろうと考えていること、串部は、原告竹島の就労は本件事故前のものには及ばなくなっているが、原告竹島の状態を考慮して減給措置をとることは控えていることが認められる。

右によると、原告竹島は、麺カンパニーから一か月当たり三万円の取締役報酬の支払を受けているが、右は利益配当の性格を有するものとはいえず、前記原告竹島の就労内容に照らせばその実質は賃金と異なるものではないと認められる。そして、原告竹島には本件事故による減収は生じていないとはいうものの、麺カンパニーにおいて将来幹部の地位に就いてそれに応じた収入を得ることは期待できなくなったものと認められ、しかも、原告竹島に減収が生じていないのは串部の情誼的配慮によるものであり、今後とも右のような状態が続く保証はないこと、将来原告竹島が転職した場合には原告竹島の後遺障害が減収に結び付くことは容易に窺われることに照らすと、原告竹島は、前記後遺障害により就労可能と認められる六七歳までの二七年間にわたって少なくとも労働能力の一二パーセントを喪失したものと認めるのが相当であり、原告竹島の前記収入を基礎に右期間に相当する年五分の割合による中間利息を新ホフマン方式により控除すると、原告竹島の逸失利益の本件事故時における現価は、次のとおり一一一五万六七八〇円となる。

計算式 5,532,800×0.12×16.804=11,156,780

(七) 慰藉料 三六〇万円(請求三九〇万円(入通院分一八〇万円、後遺障害分二一〇万円))

本件に顕れた一切の事情を考慮すれば、原告竹島が本件事故によって受けた精神的苦痛を慰藉するためには、三六〇万円の慰藉料をもってするのが相当である。

2  原告住友海上の損害 一四〇万円(請求一五〇万円)

甲第二号証の二、第一七、第一八号証、第二〇号証及び原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告車両はローバー・ミニクーパーのオートマチック車で初度登録が平成五年三月であり、本件事故により全損となったこと、原告住友海上は、本件事故当時、原告竹島との間で、原告車両について被保険者を麺カンパニーとする車両保険契約を締結しており、右契約に基づき、平成八年五月二日麺カンパニーに対し、一五七万五〇〇〇円を支払ったことが認められる。

ところで、甲第一八号証(自動車車両損害調査報告書)には、本件事故時の原告車両の時価を一五〇万円とする記載があり、甲第二〇号証(自動車保険車両標準価格表)には原告車両と同等車の標準価格を一〇五万円ないし一六〇万円とする記載がある。しかし、甲第一八号証の金額は、甲第二〇号証の価額の上限に近い数値であるところ、甲第二〇号証には、「この価格表は車両保険締結時の協定保険価額及び保険金額を定めること以外には使用しないでください。」との記載があり、右金額をもって本件事故時の原告車両の時価とするのは相当でないというべきである。しかし、乙第一号証(オートガイド自動車価格月報)によれば、原告車両と同等車の平均販売価格は一四〇万円であることが認められるから、右の限度で本件事故による損害と認めるのが相当である。

三  結論

1  前記二1による原告竹島の損害は二一六九万八八四八円となるが、甲第一二号証及び弁論の全趣旨によれば、自動車損害賠償責任保険から三四四万円の支払を受けたことが認められるから、右よりこれを控除すると、残額は一八二五万八八四八円となる。

本件の性格及び認容額に照らすと、弁護士費用は一八〇万円とするのが相当であるから、原告竹島が弘人に対して請求できる損害賠償額は二〇〇五万八八四八円となるところ、被告らは、弘人の原告竹島に対する損害賠償債務を、相続分に従い三分の一ずつの割合で相続したと認められるから、結局、原告竹島は、被告ら各自に対し、六六八万六二八二円及びこれに対する本件事故の日である平成八年二月四日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

2  前記二2のとおり、原告住友海上が弘人に対して請求できる損害賠償額は一四〇万円であるところ、被告らは、弘人の原告住友海上に対する損害賠償債務を、相続分に従い三分の一ずつの割合で相続したと認められるから、結局、原告住友海上は、被告ら各自に対し、四六万六六六六円及びこれに対する保険金支払の翌日である平成八年五月三日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。

3  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 濱口浩)

別紙図面

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